パリか地方か?
 
 (以下は特殊な分野を学ぶ人を除外し、学術的な留学一般について当てはまることのみを念頭に置いています。)

 フランス政府給費留学生のパンフレットによれば、地方の方が住宅環境、生活費ともに恵まれており、パリに留学するよりも勧められる、としている。
 確かに生活条件は地方の方がいいだろう。パリは住宅を見つけるのも大変だし、生活費も高い。語学留学のみならば、地方に留学した方が成果があがる、という人もいる。

 しかしこと学術情報に関して見ると、フランスでは圧倒的にパリに集中しているようである。地方大学の教授が、パリに住んでいるという例もあるらしい。
 また地方に行ったからといって、指導教官の面倒見が良くなるというわけでもなさそうである。何人かの話しでは、むしろ地方大学の教授の方が、多くの学生を抱えているため、忙しいという場合もあるらしい。もちろんパリにも学生はうんざりするほどいるし、日本の大学のように研究室や研究用の机が与えられることは(少なくとも人文系の分野では)まずない。しかし地方に行ったからといって、研究環境がそれほど良くなるとも期待できるわけではなさそうである。(概してフランスの大学の設備は日本よりも古く、貧弱である。毎年秋に全国で起こる大学生の設備改善要求のデモを見よ。)

 留学において最も重要なことが「情報」の摂取であるとすれば、地方に留学することによって、情報の流れから取り残されて「のんびり」過ごしてしまうことは、決定的なデメリットと言えるのではないか。現状では、やはりパリを留学先に選ぶことが賢明ではないか。
 
98/11/30

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補足

 以前書いた部分にやや一面的なところがあったので補足したい。

 確かに専門的な学問を行う場合、資料収集・情報収集ともにパリに滞在する方が圧倒的に有利である。

 しかしフランスの学術世界で学問を行う場合、「言葉」の壁は極めて高いということを、経験から思い知った。言葉を使いこなせるようになるためには、最初の留学期間のうち相当程度を費やす必要がある。

 したがって、時間と費用が許すならば、初年度もしくは最低半年間は地方に滞在し、言葉の習得に集中し、その後パリに滞在する、という手順も一考の余地がある、ということをつけ加えておきたい。パリにいても言葉がうまくならないわけではないが、地方の方が言葉の習得に関してははるかに有利、と述べる経験者は少なくない。また言葉がうまく操れないままパリに乗り込んでも、最初のうちは多様な情報摂取の手段をうまく利用できるとは限らないし、逆にストレスを溜め込むことになる可能性もある。

99/6